高尿酸血症
高尿酸血症とは
高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)とは、血液中の尿酸濃度が正常値を超えて高くなる状態を指します。
具体的には、尿酸値が 7.0mg/dL を超えると高尿酸血症と診断されます。
尿酸は、「プリン体」という物質が分解される過程で生じる老廃物です。
通常、尿酸は尿として体外に排出されますが、過剰に生成されたり、排出が十分に行われなかったりすると血中にたまり、高尿酸血症を引き起こします。
高尿酸血症自体には症状が現れにくいことが多いですが、放置すると 痛風 や 尿路結石 を発症し、激しい痛みが生じることがあります。
また、長期間高尿酸血症が続くと、腎機能の低下 にもつながります。
さらに、脳梗塞 や 心不全、不整脈、糖尿病 といった疾患とも関連があることが分かってきており、早めの対策が重要です。
プリン体は悪者?
「プリン体」と聞くと、悪いイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、プリン体自体は決して悪者ではなく、私たちが生きていく上で必要な成分の一つです。
プリン体は細胞の核に含まれる物質で、体内でエネルギー代謝やDNA合成において重要な役割を果たします。ほとんどの食材に含まれており、私たちが生きていく上で欠かせない成分の一つです。
ただし、プリン体を過剰に摂取すると、その分解物である尿酸が体内に過剰に蓄積し、高尿酸血症の原因となりえます。
食品によってプリン体の含有量には差があります。
一般に、食品100gあたりのプリン体量が200mgを超えるものは「高プリン食品」とされ、高尿酸血症の方は特に注意が必要です。
以下に、代表的な食品に含まれるプリン体量を示します(「高尿酸血症・痛風ガイドライン2019年」より引用)。
<肉類>
|
100gあたりのプリン体量 |
1食分あたりのプリン体量 |
1食分 |
鶏レバー |
312mg |
250mg |
80g |
豚レバー |
280mg |
230mg |
80g |
牛レバー |
220mg |
175mg |
80g |
鶏ささみ |
150mg |
120mg |
80g |
鶏むね |
140mg |
110mg |
80g |
牛もも |
140mg |
110mg |
80g |
鶏手羽 |
135mg |
110mg |
80g |
豚ヒレ |
120mg |
95mg |
80g |
牛ヒレ |
100mg |
80mg |
80g |
牛バラ |
75mg |
60mg |
80g |
豚バラ |
75ng |
60mg |
80g |
肉類は一般的にプリン体を多く含みますが、特にレバーや鶏肉は他の肉に比べて高めの傾向があります。
<魚類>
|
100gあたりのプリン体量 |
1食分あたりのプリン体量 |
1食分 |
マイワシ (干物) |
300mg |
240mg |
80g (2尾) |
サンマ (干物) |
210mg |
180mg |
90g (1尾 130g) |
カツオ |
210mg |
170mg |
70g (刺身5切) |
タラ白子 |
560mg |
170mg |
30g |
ふぐ白子 |
375mg |
110mg |
30g |
スルメイカ |
180mg |
180mg |
100g (1/2杯強) |
ズワイガニ |
136mg |
136mg |
100g |
サンマ |
150 |
150 |
100g(1尾150) |
マグロ |
150mg |
125mg |
80g |
明太子 |
160mg |
30mg |
20g(1/4個) |
子持ちシシャモ |
150mg |
45mg |
60g(3尾) |
魚類では干物や白子がプリン体を特に多く含みます。
魚卵にもプリン体が多く含まれますが、摂取量を調整することで総量を減らせます。
<アルコール>
|
100mlあたりのプリン体量 |
1回量あたりのプリン体量 |
1回量 |
ビール |
5-10mg |
20-40mg |
350ml |
地ビール |
10-20mg |
30-50mg |
350ml |
発泡酒 |
2-4mg |
8-14mg |
350ml |
日本酒 |
1.5mg |
5mg |
180ml |
ワイン |
1.5mg |
3mg |
200ml |
焼酎 |
0mg |
0mg |
90ml |
アルコール飲料では、特にビールがプリン体を多く含みます。
飲酒量を控えることで、摂取するプリン体の量を抑えられます。
高尿酸血症の症状・合併症
高尿酸血症は多くの場合、自覚症状がありません。
しかし、尿酸が体内で固まりとなる(結晶化)ことで、さまざまな合併症を引き起こし、時に強い痛みを伴うことがあります。
以下に代表的な合併症をご紹介します。
痛風発作
尿酸が関節内に結晶化し、突然の激しい痛みや腫れを引き起こします。特に足の親指の付け根に症状が現れやすいのが特徴です。
尿路結石
尿酸が結晶化して結石を形成し、強い腹痛や背中の痛み、排尿時の違和感が生じることがあります。
腎機能障害
尿酸が結晶化して腎臓にたまると、炎症を引き起こし、腎臓の働きが低下することがあります。この状態は「痛風腎」と呼ばれ、治療が遅れると腎機能がさらに悪化する原因になります。
さらに、近年の研究では、高尿酸血症そのものが慢性腎臓病(CKD)の発症や進行に関係していることが分かってきました。
腎臓の機能が低下すると、尿酸の排泄がうまくいかなくなり、血液中の尿酸がさらに増えることで高尿酸血症が悪化します。このような悪循環を防ぐためにも、早期の対応が重要です。
その他の関連疾患
高尿酸血症は、上記の合併症以外にも、糖尿病や高血圧、脳血管障害や心疾患(虚血性心疾患や不整脈)とも関連していることが分かってきています。これらの疾患は命に関わる可能性もあるため、注意が必要です。
高尿酸血症の原因と生活習慣
高尿酸血症は、以下の 2つの主な原因 によって発生します。
尿酸の過剰生成
-
- プリン体の過剰摂取・分解の促進
プリン体が分解される際に尿酸が生成されます。
食品や体内代謝の影響で尿酸が過剰に作られることがあります。 - 遺伝的要因
家族歴がある場合、尿酸の生成が多くなる体質の方もいます。
- プリン体の過剰摂取・分解の促進
尿酸の排出低下
-
-
- 腎機能の低下、脱水
腎臓の働きが弱まったり、水分不足により尿量が減少すると、尿酸が体外に排出されにくくなります
- 薬剤の影響
利尿薬や一部の薬剤が尿酸の排出を妨げることがあります。
- 腎機能の低下、脱水
-
生活習慣
次のような生活習慣が高尿酸血症のリスクを高めることがあります。
食事の内容
プリン体を多く含む食品を頻繁に摂取すると尿酸値が上がります。
また、果糖の過剰摂取もプリン体の分解を促進し、尿酸値の上昇につながります。
運動習慣 (無酸素運動)
無酸素運動(短距離走やウェイトトレーニングなど)は筋肉で尿酸を生成しやすくなります。
一方、適度な有酸素運動は尿酸値を安定させる効果があります。
過度なダイエット
炭水化物や脂肪分を極端に制限すると、尿酸の排出が妨げられることがあります。
またプリン体の分解が促進し、尿酸値の上昇につながります
ストレス
ストレスは古くから痛風のリスクとして知られています。
ストレスが続くと交感神経が活性化し、尿酸の排出が低下します。
また、ストレスによる過食や飲酒の増加も間接的なリスクとなります。
性別と年齢
女性は女性ホルモンの影響で尿酸値が低い傾向にありますが、閉経後は尿酸値が男性と同程度に上昇することがあります。
「ぜいたく病」との誤解
痛風は、かつて「ぜいたく病」と呼ばれることがありました。これは、昔はプリン体を多く含む食事がごく一部の裕福な人たちに限られおり、そういった方たちに痛風が多かったためです。
しかし、現代では状況が大きく異なります。ストレス社会の中で、忙しい生活や不規則な食事、筋肉トレーニングの増加などが原因となり、むしろ働き盛りの方やアクティブなライフスタイルの人たちが高尿酸血症や痛風を発症しやすい傾向にあります。
高尿酸血症の治療法
-
食事療法
体重や体脂肪率が増えると、尿酸値も上がりやすくなります。これは高尿酸血症だけでなく、生活習慣病全般に共通することです。
そのため、適切なエネルギー摂取を心がけることが大切です。
1日のエネルギー摂取量の目安
必要なエネルギー量は、体の動かし方や活動量によって異なります。「標準体重」を基準に計算します:
標準体重(kg) = 身長(m) × 身長(m) × 22
活動量ごとのエネルギー摂取量の目安は以下の通りです:
- 軽い運動量(デスクワークが多い人):標準体重 × 25~30 kcal
- 中程度の運動量(立ち仕事が多い人):標準体重 × 30~35 kcal
- 重い運動量(力仕事が多い人):標準体重 × 35 kcal
プリン体の摂取制限
尿酸値をコントロールするため、食品中の「プリン体」を意識しましょう。
1日のプリン体摂取量:400mg以下が目安です。
プリン体が多い食品:プリン体が多い食品は控えめにしましょう。ただし、完全に避ける必要はありません。少量に抑える工夫をしましょう。
- 特に注意が必要な食品(プリン体200mg以上/100g)
鶏レバー、豚レバー、干物(マイワシ、サンマ)など - 控えめに摂りたい食品(プリン体150mg程度/100g)
鶏ささみ、マグロ、サンマ(生)など
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節酒
アルコール摂取量が多いほど、痛風のリスクが高まります。
特にビールはリスクが高いため、摂取量をコントロールしましょう。
血清尿酸値への影響を最小限にする適量
- 日本酒:1合(180ml)
- ビール:350~500ml
- ウイスキー:60ml
- ワイン:150ml
アルコールの摂取は適量を守り、週に数日は休肝日を設けることをおすすめします。
-
適度な運動
運動は肥満を解消し、尿酸値を下げる効果が期待されます。
ただし、短時間で激しい運動は尿酸値を上昇させる可能性があるため注意が必要です。
おすすめの運動
- ジョギング、サイクリング、ウォーキング:軽く息が弾む程度の運動が最適です。
- 運動時間の目安:1回10分以上の運動を1日合計30~60分行うことが推奨されています。
無理なく続けられる運動を選び、毎日の生活に取り入れましょう。
薬物療法
高尿酸血症の治療では、まず生活習慣の改善を試みますが、それだけでは尿酸値を十分にコントロールできない場合、薬物療法を検討します。薬は患者さん一人ひとりの状態に合わせて選びます。
尿酸値を下げる薬には、主に次の2種類があります。
- 尿酸生成抑制薬
作用:体の中で尿酸が作られる量を減らします。
適している場合:尿酸が体内で過剰に作られている場合に効果的です。
- 尿酸排泄促進薬
作用:尿酸を尿と一緒に体の外に排出しやすくする薬です。
適している場合:腎臓で尿酸の排泄がうまくいかず、体内にたまっている場合に使います。
薬の選び方
どちらの薬が適しているかは、次のような要素を総合的に判断して決めます。
- 尿酸値が高くなる原因
- 他の持病や合併症の有無(例:腎臓病や心疾患など)
- 他に服用している薬との飲み合わせ
薬物療法のポイント
薬は正しく使えば非常に効果的ですが、服用中は定期的に血液検査や尿検査を受け、体に負担がかかっていないかを確認します。
また、薬の効果を最大限に引き出すため、食事や運動といった生活習慣の改善も並行して行うことが大切です。
当院での取り組み
当院では、血液検査を中心に高尿酸血症の早期発見・治療を行っています。高尿酸血症は、働き盛りの世代にも多い疾患です。そのまま放置すると、痛風や尿路結石だけでなく、脳梗塞や心疾患などの深刻な病気につながる可能性があります。これらの病気を予防し、健康寿命を延ばすためにも、対策を取ることが大切です。当院では一人ひとりに合わせた生活指導や治療計画を立て、痛風や尿路結石を予防するお手伝いをします。
健康診断で尿酸値が高いと指摘された方、または高尿酸血症について気になる方は、お気軽に当院へご相談ください。