「なかなか治らない咳」の正体|④ 百日咳とは?
はじめに
「咳がとにかく止まらない」
「咳の発作が続いて、息ができないほど苦しい」
「夜中に咳で目が覚める」
こうした強い咳が何週間も続く場合、百日咳(ひゃくにちぜき)の可能性も考慮する必要があります。
2025年は、ニュースなどでも報じられている通り、百日咳の患者数が全国的に増加しています。
川崎市の発表によると、2025年6月1日までに市内で210人の発症報告があり、東京都内ではすでに1,598人に達しています(出典:川崎市感染症情報発信システム、東京都感染症情報センター)。
参考までに、2024年の川崎市内の年間報告数は122人であり、今年はすでに前年を大きく上回っています。
川崎市感染情報発信システム 感染症発生動向調査より引用
今後も患者数の増加が予想される中、特に「激しい咳」が特徴の百日咳について、わかりやすく解説していきます。
百日咳とは?
百日咳(ひゃくにちぜき)は、その名前のとおり、咳が何週間も、場合によっては3ヶ月以上続くことがある感染症です。
原因は「百日咳菌」という細菌で、以下のような経路で感染します
咳やくしゃみによる飛沫(ひまつ)を吸い込む「飛沫感染」
菌が付着した手や物を介する「接触感染」
これらによって、人から人へと広がっていきます。
特に小さなお子さんでは重症化しやすいことで知られていますが、大人でも発症することがあります。
大人では「咳だけが長引く」という症状が目立ち、風邪との区別がつきにくいため、見逃されやすいのが特徴です。
近年では、小児へのワクチン接種の普及により、子どもの重症例は減少傾向にあります。
一方で、免疫が弱まった大人の百日咳感染が増えており、問題となっています。
ワクチンによる免疫は5〜10年程度で低下するといわれており、子どもと接する機会の多い大人が、知らないうちに感染を広げてしまうケースもあるため、注意が必要です。
百日咳の主な症状と経過
百日咳の症状は、感染してからの経過によって変化していきます。大きく以下の4つの時期に分けられます。
🔸 潜伏期(感染から7〜10日)
この時期はまだ症状が現れませんが、体内では菌が増殖しています。
🔸 初期(カタル期/1〜2週間)
軽い咳や鼻水など、風邪とよく似た症状が出てきます。
徐々に咳が強くなっていきますが、この時期は百日咳とは気づかれにくいことが多いです。
🔸 痙咳期(けいがいき/2〜4週間)
咳が急激に悪化し、発作のような咳が続く時期です。
代表的な症状は以下の通りです
連続した激しい咳(咳き込み)
息を吸うときに「ヒュー」という笛のような音(吸気性笛声)
咳き込んだ後に吐いてしまう
特に夜間に咳がひどくなる
この時期は、咳の発作によって眠れなかったり、呼吸が苦しく感じたりするなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
なお、成人では、小児に比べて「ヒュー」という音(喘鳴)や咳の後の嘔吐が少ないとされています。
🔸 回復期(4週以降)
徐々に咳の頻度が減っていきます。
ただし、完全に咳が治まるまでには、さらに数週間〜1ヶ月以上かかることもあります。
百日咳の診断は難しい?
百日咳の診断確定には、以下のような検査が行われることがあります:
咽頭ぬぐい液のPCR・LAMP検査(遺伝子検査)
血液検査(抗体価の測定)
しかし実際の診断は簡単ではありません。
なぜなら、
初期は風邪とほとんど同じ症状であること
すべての風邪症状の患者さんに検査を行うことが現実的でないこと
といった理由から、診察時の問診や周囲の状況(接触歴)を参考に判断する必要があります。
たとえば、
周囲に百日咳と診断された方がいないか?
長引く咳をしている人が身近にいないか?
といった情報も、診断の手がかりになります。
検査体制の現状と当院の対応
現在、全国的に百日咳が流行しており、検査の需要が急増しています。
その影響で、検査に必要な試薬が不足しており、十分な検査が行えないケースも増えています。
当院では、百日咳が疑われる方に対しては「鼻咽頭ぬぐい液によるLAMP法(遺伝子検査)」による検査を手配しており、可能な限り正確な診断に努めています。(検査結果が出るまで、2-4日間要します。)
限られた資源の中でも、適切な診断と対応ができるよう工夫を重ねています。
治療のポイントと感染予防
百日咳は、時間の経過とともに自然に回復することが多い病気です。
ただし、発症後できるだけ早い段階(2週間以内)で、適切な抗菌薬を使用することで、症状の悪化を防ぎ、回復を早める効果が期待されています。
一方で、発症からある程度時間が経ってしまった場合には、抗菌薬による症状の改善効果は限定的とされています。
それでも、周囲への感染を防ぐ目的で抗菌薬が使用されることがあります。
🟡 感染を防ぐために
百日咳は感染力が強く、特に咳が出始めてから数週間は感染力が高いとされています。
- 妊婦さんや予防接種前の乳児が近くにいる場合は、できるだけ接触を控えましょう。
- 咳が続いている方は、マスクの着用や人混みを避ける配慮が大切です。
🟡 登校・出勤の目安
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学校:特有の咳が治まった後、または適切な抗菌薬を5日間内服した後に登校可能です。
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出勤:法律上の制限はありませんが、感染拡大を防ぐ観点からは、学校と同様の対応が望ましいです。
※最終的には、職場の方針に従ってご判断ください。
まとめ
激しい咳が続く、咳き込むと吐く、夜も眠れない…。
そんなとき、百日咳の可能性を考える必要があります。
早めに診断し、適切な治療を受けることで、
症状の悪化や周囲への感染を防ぐことができます。
川崎区で内科・消化器内科をお探しの方へ。
当院では、長引く咳や感染症に対する診療も行っています。
咳だけでなく、体調の変化や不安な症状がある方も、お気軽にご相談ください。
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